壬申戸籍は相続で必要なのか?取得できない戸籍の実務判断

この記事は、壬申戸籍シリーズ全8本構成の最終記事です。

壬申戸籍シリーズ全体の流れや制度の位置づけを最初から確認したい方は、1本目の以下の記事から読むと理解しやすくなります。
壬申戸籍(明治5年式戸籍)とは?日本初の全国戸籍制度の全体像

前回の7本目の記事では、壬申戸籍と明治19年式戸籍を並べて見ながら、制度思想、記載内容、取得可否の違いを確認しました。
壬申戸籍と明治19年式戸籍の違いとは?制度・記載・取得可否を比較

シリーズの最後となる今回は、壬申戸籍は相続で必要なのか、取得できない戸籍を実務ではどう考えればよいのか、という点を相続手続の視点から解説します。

壬申戸籍は、戸籍制度の歴史を理解するうえでは非常に重要です。ただし、重要であることと、相続実務で取り寄せる必要があることは別です。

ここを誤解すると、

・もっと古い戸籍まで取らなければならないのではないか
・壬申戸籍が取れないと出生までつながらないのではないか
・相続手続が止まるのではないか

と不安になりやすくなります。

この記事では、そうした不安を実務の基準に引き直しながら、どこまで遡れば足りるのか、取得できない戸籍をどう理解すればよいのか、現実的な判断の仕方を確認していきます。

目次

結論 壬申戸籍は相続で必要になる戸籍ではない

結論からいうと、壬申戸籍は相続で必要になる戸籍ではありません。理由は明確です。壬申戸籍は現在、一般の手続では閲覧も取得もできない戸籍だからです。

相続では、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めるのが基本です。ただし、この「出生から死亡まで」という表現は、制度上取得できる戸籍の範囲で出生までつなげる、という意味で理解する必要があります。

つまり相続実務では、「存在したことのあるすべての戸籍を集める」のではなく、「現在の制度の中で取得可能な戸籍を連続的につなげる」ことが求められています。この基準で考えると、壬申戸籍は最初から収集対象の外側にある戸籍です。そのため、壬申戸籍が取れないこと自体を問題にする必要はありません。

相続で大事なのは「取得できる戸籍で出生までつながるか」という視点

相続の戸籍収集で大事なのは、理論上いちばん古い戸籍まで遡ることではありません。

実務で大事なのは、

・現在取得できる戸籍の範囲で
・被相続人の親子関係が
・出生時点まで連続して確認できるか

という点です。

たとえば、相続で戸籍を追っていくと、

・現在戸籍
・除籍
・改製原戸籍
・さらに古い戸籍

という流れで遡っていくことがあります。

このとき、制度上取得できる最も古い戸籍までつながり、その戸籍で被相続人の出生事項や親子関係が確認できれば、実務上は足ります。

ここで重要なのは、「これより前にも制度としては壬申戸籍があった」という歴史的事実と、「相続でそこまで取らなければならない」という実務上の要請は一致しない、ということです。壬申戸籍は前者の話であって、後者の話ではありません。

相続実務では明治19年式戸籍以降が現実の起点になる

相続実務で現実に問題になる古い戸籍の起点は、明治19年式戸籍以降です。前回の記事でも見たように、壬申戸籍と明治19年式戸籍の違いはかなり大きいです。壬申戸籍は取得できませんが、明治19年式戸籍は古い戸籍として実務上の対象になります。

そのため、相続で戸籍を遡るときは、

・昭和期の戸籍
・大正期の戸籍
・明治期の戸籍

という流れの中で、最終的に明治19年式戸籍へ到達することがあります。そしてその明治19年式戸籍で出生までつながれば、通常はそれで足ります。

つまり実務では、「壬申戸籍が存在したことを知っておくこと」は意味がありますが、「壬申戸籍を取ること」は前提になっていません。相続で本当に大事なのは、取得可能な古い戸籍の中で、どこまでつながったかです。

壬申戸籍が取れないことを理由に相続手続が止まることは通常ない

ここは不安になりやすいところですが、壬申戸籍が取得できないことを理由に相続手続が止まることは通常ありません。なぜなら、金融機関や法務局なども、制度上取得できない戸籍を提出対象として求めているわけではないからです。

相続手続で求められているのは、

・制度上取得可能な戸籍を集めること
・その戸籍から相続人が分かること
・親子関係の連続性が確認できること

です。

もし壬申戸籍が取れないこと自体を理由に手続が止まるのであれば、古い相続はほとんど処理できなくなってしまいます。実務はそういう設計にはなっていません。

ここで不安が生じるのは、「出生まで」という言葉を、制度上存在した全時代の戸籍にまで遡ることだと受け取ってしまうからです。しかし現実の実務では、取得可能な戸籍の範囲で出生までつながることが基準です。

壬申戸籍の存在を知っておく意味はある ただし役割は実務書類ではなく背景知識

ここまで読むと、「では壬申戸籍の知識は実務では不要なのか」と思うかもしれません。そうではありません。壬申戸籍を知っておく意味はあります。ただしその意味は、実務で取り寄せる書類としてではなく、どこまで遡れば足りるのかを理解するための背景知識としての意味です。

壬申戸籍の存在を知っておけば、

・なぜ明治19年式戸籍あたりが実務の起点になりやすいのか
・なぜそれより前は確認対象にならないのか
・なぜ古い戸籍制度の説明で壬申戸籍が出てくるのか

が分かりやすくなります。

つまり壬申戸籍は、相続実務の収集対象ではないけれど、相続実務の判断を支える歴史知識としては意味がある、という位置づけです。

古い戸籍に不安を感じたときは「制度の境界」を意識すると考えやすい

相続で古い戸籍を扱っていると、

・この前にももっと古い戸籍があるのではないか
・ここで終わりにしてよいのか
・まだ足りないのではないか

と不安になりやすいです。こういうときに大事なのが、制度の境界を意識することです。

戸籍制度には歴史がありますが、実務で確認対象になる範囲には境界があります。壬申戸籍は、戸籍制度史の中では重要でも、現在の実務で確認対象になる戸籍の外側にあります。

この境界を意識すると、「歴史として存在したかどうか」と「今の手続で取る必要があるかどうか」を分けて考えやすくなります。この切り分けができると、古い戸籍に対する不安はかなり軽くなります。

相続で本当に困るのは壬申戸籍が取れないことではなく、取得できる古い戸籍の読み違い

相続実務で本当に問題になりやすいのは、壬申戸籍が取れないことではありません。

実際に困りやすいのは、

・明治19年式戸籍やそれ以降の古い戸籍が読みにくい
・戸主中心の記載が分かりにくい
・改製や転籍の流れを追いにくい
・どこで出生までつながったと判断するか迷う

といった点です。

つまり、戸籍制度の歴史を知ることも大切ですが、実務では、「取得できない戸籍を気にしすぎること」より、「取得できる戸籍を正しく読むこと」の方がはるかに重要です。壬申戸籍に意識を向けすぎると、本当に判断すべき実務ポイントから目が離れてしまうことがあります。その意味でも、壬申戸籍は「知っておくべき歴史」であって、「追いかけるべき書類」ではありません。

歴史を知ることと、実務で合理的に終えることは両立する

壬申戸籍シリーズを通して見てきたように、壬申戸籍は戸籍制度の出発点に近い、非常に重要な制度です。その成立、構造、記載内容、改正、封印保管の経緯を知ることで、戸籍制度がどのように作られてきたのかがよく分かります。ただし、歴史を深く知ることと、実務で合理的に手続を終えることは別です。むしろ両立させることが大事です。

歴史を知るからこそ、

・壬申戸籍は重要だが取得対象ではない
・明治19年式戸籍以降で考えればよい
・制度上不可能なことを前提に不安にならなくてよい

という、現実的な判断がしやすくなります。つまり、壬申戸籍の知識は、相続実務を重くする知識ではなく、余計な不安を減らす知識として使うべきものです。

まとめ

壬申戸籍は、戸籍制度の歴史を理解するうえでは重要な制度ですが、相続実務で取り寄せる必要がある戸籍ではありません。

相続で大事なのは、

・取得可能な戸籍制度の範囲で出生までつながっているか
・親子関係の連続性が確認できるか
・制度上不可能な収集を前提にしないこと

です。

そのため実務では、壬申戸籍の存在を歴史知識として理解しつつも、実際の収集対象としては明治19年式戸籍以降を基準に考えることになります。壬申戸籍が取れないこと自体を不安視する必要は通常ありません。本当に重要なのは、取得できる古い戸籍を正しく読み、合理的な範囲で戸籍収集を終えることです。

壬申戸籍シリーズでは、戸籍制度の出発点から現在の実務判断までを一つの流れとして見てきました。

戸籍制度の歴史を知ることは、古い戸籍への理解を深めるだけでなく、相続実務で必要以上に迷わないためにも意味があります。

相続の戸籍まわりの全体像は
相続の戸籍の集め方と必要書類|解説記事一覧
にまとめています。他のケースや手続きも含めて確認したい方は、あわせてご覧ください。

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